かもめクリニックでは、長時間透析・自由食が生命予後に優れていることを明らかにするために、名古屋大学と共同研究を進めています。
今般、名古屋大学による論文が受理されたので、概要版と原文を掲載します。
タイトル:Impact of old age on the association between in-center extended-hours hemodialysis and mortality in patients on incident hemodialysis
ジャーナル名:PloS One
表記:PLoS One. 2020 Jul 10;15(7):e0235900.
共同研究報告
『長時間血液透析は、特に70歳以上の透析患者において、総死亡リスクが低下する』
研究背景
近年、透析患者さんの高齢化に伴い、低栄養が増加していることが問題となっています。透析患者さんの低栄養の特徴は、食事制限の必要性に加えて、尿毒素の蓄積が関与している点です。一方で、1回あたり6時間以上の血液透析は長時間血液透析(長時間透析)と呼ばれ、従来の血液透析よりも十分な尿毒素の除去と除水が可能となり、結果として患者に厳しい食事制限を求めない自由食を実現することが可能な透析療法です。本研究は、長時間透析が従来血液透析(従来透析)と比較して、生命予後に優れるかどうかを明らかにすることを目的として実施されました。
【研究対象および方法】
- 研究デザイン: 後方視的コホート研究
- 対象患者: 比較群は、かもめクリニック関連3施設(日立、大津港、草木台)にて長時間透析のみで治療された新規透析導入患者190名(長時間透析群)。対照群は、愛知県内の17施設にて新規透析導入され、その後従来透析(透析時間 < 6時間/回)のみで治療された1363名(従来透析群)。
- 主要アウトカム: 総死亡
- 統計解析: Kaplan-Meier法およびCox比例ハザードモデルを用いた生存解析
【結果】
- 年齢中央値は長時間透析群67.1歳、従来透析群70.7歳。
- 最大5年間の観察中371例の総死亡イベントを認め、粗死亡率は長時間透析群が4.1(/100人年)、従来透析群が7.8(/100人年)であった。Kaplan-Meier法による生存解析では、長時間透析群は従来透析群に対して有意に生命予後に優れていた(図1)。
- Cox比例ハザードモデルにて年齢、性別、体格指数、糖尿病、心血管病、肝疾患、悪性腫瘍、血管アクセス、降圧剤数の患者背景を調整した結果、長時間透析群は従来透析群に対して総死亡リスクが40%低かった。特に70歳以上の高齢患者群に関しては、長時間透析群は従来透析群に対して総死亡リスクが65%低かった。
【結論】
- 長時間透析は従来透析と比べて、特に70歳以上の高齢透析患者において、優れた生命予後と関連した。
研究結果に対する考察
- 本研究は、高齢の血液透析患者に対して長時間透析を実施し、従来透析と比較して良好な生命予後と関連することを示した初めての研究です。
- かもめクリニックの長時間透析療法には、3つの治療特徴があります。最も大きな第一の治療特徴は、食事制限の撤廃です。本研究において、長時間透析群の患者は自由に食事を摂るよう指導されており、血液透析の治療中にも常食を摂取しています。この食事摂取戦略が、末期腎不全患者の栄養障害の改善に寄与している可能性が考えられます。
- 第二の治療特徴は、1回の透析あたり8時間以上、週3−4回の透析を目指している点です。過去の研究では、透析時間不足による過大な除水速度は、生命予後の悪化のみならず、透析後の疲労感やQuality of Lifeの低下とも関連することが指摘されています。
- 第三の治療特徴は、透析治療中の脱血速度が低いことです。これは第二の治療特徴と合わせて、血液透析中の血行動態の安定化に寄与します。また脱血される血流量が少ないことは、アミノ酸を含む栄養素の過剰な喪失を防ぎます。名古屋大学の研究グループは過去の論文にて、長時間低血流透析+自由食という治療戦略より透析患者の体格指数(BMI)が経時的に増加し、BMIの維持ないし増加が総死亡リスクの低下と関連することを報告しています。
- 以上より、自由食・長時間・低血流の3つの治療特徴を有する長時間透析療法が、高齢の透析患者のアウトカムを改善する可能性が示唆されました。